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約款の著作物性について

約款というのは、「多数の契約に用いるために予め定式化された契約条項の総体」と定義されます(『契約法』(有斐閣)中田裕康著32頁)。たとえば、インターネットで契約をする場合に、ずらっと契約条項が表示されて、その下の「同意する」のボタンをチェックすることがあると思うのですが、その時に表示される契約条項は「約款」に該当します。

 一対多のビジネスを行う場合に、約款を用いて契約内容を定めることは非常に便利であり、日常生活でも至るところで約款を目にします。そのような約款の需要は高く、新規にビジネスを始めたいという人が、先行する業者の約款を流用しようとする例も見られます。しかし、そのような場合、当該約款を作成した人の著作権を侵害しないのでしょうか。

 このような問題について判断を示したのが、東京地判平成26年7月30日(平成25年(ワ)第28434号、裁判所HP)です。この事件は、原告が、自社のウェブサイトに掲載した時計の修理規約を被告が複製又は翻案したなどとして、差止と損害賠償を求めた事件です。この訴訟において、裁判所は、次のように述べて、損害賠償5万円と差止を認めました。以下、判決文を要約して紹介します。

 ①一般に、修理約款とは、修理受注者が、修理を受注するに際し、あらかじめ修理依頼者との間で取り決めておきたいと考える事項を「規約」、すなわち条文や箇条書きのような形式で分掌したものと考えらえるところ、(中略)これを表現しようとすれば、一般的な表現、定型的な表現になることが多いと解される。このため、その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって、通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。

 ②しかしながら、規約であることから、当然に著作物性が無いと断ずることは相当ではなく、その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合もありうると解するのが相当というべきである。

 ③これを本件についてみるに、原告規約文言は、疑義が生じないよう同一の時効を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点(中略)において、原告の個性が表れていると認められ、その限りで特徴的な表現がされているというべきであるから、(中略)著作物と認めるのが相当というべきである。

 ④そして、被告規約文言全体についてみると、見出しの項目、各項目に掲げられた表現、記載順序などは、すべて原告規約文言と同一であるか、実質的に同一であると認められる。(中略)したがって、被告は、被告規約文言を作成したことにより、原告規約文言を複製したというべきである。

 注目するべきは、「通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多い」、しかしながら「規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には、著作物として保護される場合がある」という点です。今回の場合、何度も同じことを規約で定めていた点に「作成者の個性」が表れているということで、著作物性が認められました。専門家であれば、そのような余事記載は削りとってシンプルなものにするでしょうが、ある意味洗練されていなかったことが功を奏し、原告は勝つことができたということになります。

 以上の判決から、すでに約款を作成している立場から言えば、かなり特殊な約款でなければ、著作権侵害を主張することは難しいということになりますし、これから作成する人に対しては、約款であるからといって、絶対に著作物性が認められないわけではないので、コピーするのはやめましょうということになります。洗練された約款であれば著作物性が認められない可能性が高いので、専門家に約款の制作を依頼するのも良いかもしれません(原案を作成して、専門家にシンプルにしてもらうなど)。

 なお、約款と類似する契約書案や船荷証券に関して、著作物性を否定した裁判例があります。停止条件付突売買契約書の案文について東京地判昭和62年5月14日判時1273号76頁、船荷証券について、東京地判昭和40年8月31日判時424号40頁。具体的な事案を検討する際に参考になると思います。

 学説を見ると、契約書の書式のようなものに一切著作物性を認めない見解もありますが(半田正夫教授)、著作物性を認めるべきものもあるという見解の方が多い印象です(中山信弘教授ら)。約款や契約書案のようなものは、ビジネスの内容やそれを規制する法令や慣行によって、書くべきことというのはだいたい決まっていて、それに独占権を認めると日常生活に生じる弊害は大きいことから、著作物性を認める範囲は非常に限定するべきと考えます。

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